三浦英之(集英社文庫)
自分が同じ立場だったら、こんな言葉を紡げるだろうか?
選ばれなかった言葉、語られなかった物語、あるいは表現できなかった感情を背後に感じる。
だから、35行ずつの日記が短いとは思わない。
震災後の2011年6月~2012年3月まで、宮城県南三陸町で駐在記者となり、その日記は朝日新聞に毎週掲載され全国に届けられた。
私たちは、この国は、被災地で起こったこと、そこにいた人、そして今もそこに生きる人たちの思いを、本当に"未来"に繋げられているだろうか。
いつからこんなに鈍感になってしまったのだろう、と私は思った。
がれきの町で話を聞く度に、被災者の多くは「大丈夫です」とほほ笑んでくれる。それは、被災の実感を持ち得ない取材者に対する優しさなのだと知っていながら、私はどこかで安心していた。大丈夫、この町は必ず立ち直れる、と。
結局は自分を守りたいだけだったのだ。前へ前へと進もうとすることで、人は過去や現実を振り返らないですむ。私はどこかで、被災地の「優しさ」に心の安住を求めていなかったか。(『水のない町』より)
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